政府が国民負担を増加させようとするときの常套手段が国民の嫉妬心を煽る戦略である。
専業主婦に対するワーキングウーマン、高齢者に対する若者の嫉妬心を刺激するのは社会制度の改悪と国民負担増加の意図がその裏にある。
そして、その手先となって政府を助けるのが新聞である。
政府の意向を反映した記事が多いと噂されることの多い日経新聞の関連である日経ビジネスは、5月1日号の特集「さらば老害ニッポン」では、20代から70歳以上を対象に「世代間の公平性に関する意識調査」を実施し、若い世代ほど、高齢者の待遇に不満を抱えていることが鮮明に数字に表れたと煽っている。
その記事は、若者が不満を持っている点では「高齢者の年金などを賄うための借金のツケを若い世代が負っている」(70.3%)が一番多く、「高齢者がもらえる年金額が今の若い世代が受給年齢に達した時より多い」(58%)と続く。
要するに、我々の金を使って生活している高齢者の年金の方が、我々がもらう年金より多いのはおかしい。という不満である。
その不満は尤もである。しかし、不満をぶつける対象が違う。高齢者ではなく政府にこそ不満をぶつけるべきである。
元々年金制度は現役世代の年金保険料で高齢者の年金を負担するように設計されている。現在の高齢者はその年金額で親世代を養ってきたのであり、現在若者世代の年金保険料で保険金を受け取っていても何ら批判される筋合いはない。
現時点での年金財政の悪化も少子高齢化の影響というよりも、政府の低金利政策の悪影響の方が大きい。元々年金制度は予定利率5.5%で設計されていたが、政府がバブル崩壊後の不況で企業を救う為にこれを大きく下回る低金利政策をとった為年金財政が悪化した。
元々、若い時に積立てた年金を高齢になってから受け取る仕組みであればこんな問題は発生しない。
例えば、平均月収375千円で38年務めたとして年金を計算すると年間2027千円になる。一方平均月収375千円の14%(現在の厚生年金保険料率は18.182%)を38年間年率4.5%で積立れば38年で59百万円になる。65歳から使用するとして3000千円なら85歳まで持つ金額である。高齢者が今支給されている年金は多すぎるというよりはむしろ少なすぎるといっても過言ではない。
当然、4.5%という運用金利は高すぎるという批判がでるだろうが、バブル崩壊前の金利は6%前後であった。さらに私事だが、2000年当時から現在まで積立変額保険で運用しているがその平均利回りは7%を超えており、4.5%という運用金利は決して高すぎる数値ではない。
結局のところ、少子高齢化も低金利による年金財政の危機も、全ては政府の失政が原因である。政府はマスコミを総動員し若者の不満を高齢者に向け、失政の責任を逃れ返す刀で社会保障制度の改悪を実施しようとしているにすぎない。